寝台特急の旅 その6 


  寝台特急 あけぼの 1階ソロ(B寝台個室)乗車記 (2008.3.5乗車)

あけぼの 去年の12月にこの「あけぼの」A寝台個室に乗ったのが、特急寝台ファンになった始まりだった。
 その時ちらとB寝台個室を覗き、こちらもなかなか快適そうに見えたので、それを確かめるべくまた「あけぼの」に乗った。この列車は夜行寝台としてちょうど良い時間帯を走り、乗りやすい。札幌行では行過ぎる。「北陸」では短すぎる。
 明るい時間帯に走る見所と言えば岩木山くらいしかない。しかし、考えてみるとこの列車は凄いところを走っている。上野から関東平野を突き抜け、利根川沿いに遡り、谷川岳直下の清水トンネルを抜け雪国に入り、越後平野を縦断し、寒風吹きすさぶ日本海を左手に北上する。昼間走れば面白いコースだ。上越国境の長いトンネルを抜け、雪国に入ると言うだけでわくわくしてしまう。新津、秋田間の羽越線も面白そうだが、残念ながら昼間通ったことが無い。この区間は何度通っても真夜中だ。
 さて、B寝台個室の乗り心地だが、もし去年、A寝台個室に乗らずこちらにしていたなら、おそらくこれほど個室寝台特急に夢中になれなかっただろう。居住性に限って言えば価格差以上のことはある。正直言って早く降りたくなった。その居住性の悪さを差し引いても、寝台特急個室の旅情は十分に満喫できた。
写真:寝台特急 あけぼの 上野駅13番ホーム


2008年3月4日上野発青森行「あけぼの」 B寝台個室ソロ 1階席に乗車

上野(21:45)-大宮(22:09)-高崎(23:20)・・・長岡・・・酒田-秋田(6:44)-八郎潟-森岳-東能代(7:48)・・弘前-青森(9:56)

 「あけぼの」にはA寝台個室シングルツイン1両、B寝台個室ソロ2両、開放B寝台3両、それに「ゴロンとシート」と呼ばれる寝具無しで横になるだけの寝台車2両(うち1両女性専用)合計8両の客車があり、それに電源車カニ24が付く9両を、EF81交直両用電気機関車が牽引する。
 ソロは人気があるようで、希望の左側が取れず去年と同じ右側の部屋になった。B個室ソロは他のブルートレインと違い、線路に平行なベットが中央通路の両側に上下2段になって配置されている。2階席は前回の「北陸」であまり面白くないことがわかったため、今回は1階にしてみた。2階より1階の方が先に埋まるらしい。
 電車寝台など線路と平行なベット配置の車両もあるが、私はこのタイプの寝台に乗ったことが無い。線路と平行な方が良いと言う人もいれば、直角(枕木に平行)の方が良いと言う人もいる。そのあたりの感触を確かめたかった。
おなじみ上野駅地上13番ホーム

行き止まりの上野駅地上ホームに、例によって機関車推進で入線して来る。
係員が手に掲げた札のところで停止すれば、最後尾の位置もぴたりと合う。

カメラマンの多いこと、こういう状態になると末期症状のような気がする。
ブルートレインの淘汰が進み、今や珍しい列車になってしまった。
今夜のねぐらオハネ24
金帯である。二つ上写真の最後尾車両は白帯。

ベットが線路に平行なため、一人当たりの窓が実に大きい。反対側も対称に部屋がある。

一階が良いか二階が良いか乗り比べてみたいところ。
ゴロンとシート

座席指定料金だけで乗れるので、非常にお徳。

寝具が無いとはいえカーテンでプライバシーも保て、座席車よりも遥かに楽だ。元気が余っていれば乗っても良い。
上野駅で「青森」の文字を見なくなってしまった。

女性専用の「ゴロンとシート」車両。混んでいるのか空いているのか、覗いて見るわけに行かないので判らない。
先頭の機関車を撮影し、最後尾まで行った。発車前の儀式になってしまった。
発車15分前
数分前に入線してわっと乗り込み、すぐに発車する新幹線と違い、出発前の静かな興奮がある。
昔なら見送りの人も大勢いたろうに、今は誰も居ない。
うっ、狭い。

入口から28mm(換算値)広角レンズで撮ってもこれだけしか写らない。
A寝台に慣れてしまうと、これは辛い。
カメラを水平に構えられない狭さ。
左の出っ張りは二階席の階段部分。この部分を占有できるだけでも二階席の方が得か?
左奥にあるのは背当てクッション。横にならないときは、これをベットの上に適当に置く。
その手前はゴミ箱。大きすぎる。邪魔。レジ袋でもぶら下げて置けばよい。
大型スーツケースどころか、中型のキャリーケースでも部屋に入れ辛い。
クッションをこのように壁につけ、その上に枕を置けば居心地の良い座席になる。

ハンガーをフックに掛けると衣類はこの位置になる。寝るとちょうど顔の高さに服の裾がきて、眠れた物ではない。
ハンガーはドアに引っ掛けた。
21:45定刻発車

A寝台と違い優越感を持って通勤客を眺める気にはなれない。
「あの狭いところで朝まで寝るのか。お気の毒に」と思われているような気さえして来る。

もしこちら側が食堂車だったら、食べるのにも気を使う。しかし、「あけぼの」には華の食堂車がない。ロビーカーも無い。
上野駅を出ると、鶯谷のホテル街が見えてくる。

今日は残念ながら月が出ていない。どこまで景色が見えるだろうか。カメラに収められるだろうか。
浦和駅通過(22:02)
さいたま新都心駅通過(22:05)

いつの間にこんな駅ができたのか。
京浜東北線が止まるのは知っていたが、中長距離ホームがあるのは知らなかった。

室内灯をすべて消してもこの明るさだから、ホームからも内部が見えてしまう。
トワイライトエクスプレスの遮光ガラスなら見えないが、一長一短だ。
大宮駅発車(22:10)

東武野田線ホームでは、まだまだ通勤客が途切れない。
大宮を出ると、畑が多くなる。以前は月明かりで赤城山も見えたのに、今日は何も見えない。通過する駅の駅名を読んだりしているだけ。

やがて線路が何本にもなり、電車、機関車が何編成も見え出したら高崎だ。(23:10)
水上駅近く(0:14)

トンネルを抜けていないのに、吹雪模様になってきた。久しぶりに大雪に遭遇した。

首都圏では珍しくなった湘南色の115系電車が目に付く。私が関東にいた頃からだから、もう40年くらい前の設計のはず。
水上駅(0:15)

停車駅ではない。運転手の交代のための停車。

凄い雪だ。上り線路は雪に埋もれて見えないくらい。
急ぐ旅でもないので遅れても構わないが、途中で止まるのだけは困る。
土合駅(0:27)

新清水トンネルの中にできた駅。
谷川岳登山の人は、ここから何百段もの階段を上がって地上に出る。
それだけでくたびれてしまいそう。

トンネルを抜けても雪国だったが、思ったほど凄くは無い。越後湯沢あたりから、うとうとしだした。

長岡駅(1:45)

停車で目を覚ます。
ホームの反対側には上り「北陸」が停車中。
ここで待ち構えていれば、「あけぼの」と「北陸」の2ショットが撮れる。
ところがどちらも時刻表では長岡通過になっているので、あまり知られていないのだろう。特に「北陸」は機関車の付け替えをやるから見もののはずだが、真夜中の事ゆえ誰もホームに入れないのかも知れない。こちらも降りられない。
酒田駅(5:04)

目が覚めてしまった。雪で遅れているかと思ったら、定刻だった。
この程度の雪は何でもないのだろう。ちょっと鉄道マンに敬意を払う。
6時半にはお決まりの「おはよう」放送があり、たたき起こされる。

目が覚めても眠いので、横になったまま景色を眺めている。
背当てクッションと枕をこのように置くと、上体が少し上がって横になったまま景色が眺められる。このポジションは枕木平行ベットでは不可能。
八郎潟駅(7:16)

この辺の雪は、うっすら白くなっている程度。
気温もそれ程低くはなさそうだ。
雪が融けている。
着替えを始めたが・・・
狭い。頭が天井に支えてしまう。

二階階段部分の左の出っ張りの邪魔なこと。これが無かったとしても、立ち上がれるわけではない。室内高は1.5mと、誰かのサイトに書かれてあった。
この位置で着替えをしなければならないわけで、中腰の作業となりこれが非常に辛い。

昨夜浴衣に着替えるときは、結局室内で帯が締められず、通路に出ざるを得なかった。
鯉川駅(7:26)

ここは停車駅ではない。奥羽本線は単線のため、特急と言えども交換のため時々停車する。
森岳駅(7:38)

森岳温泉の最寄り駅。石油採掘中に温泉が出てきたらしい。

この時間に温泉駅に止まられても、風呂に入れるわけでもなく、泊り客がこの列車に乗るわけでもなく、中途半端な時間帯だ。
車両中央部にある廊下

狭いし暗いし、通り抜けるのがやっと。

普通の寝台車ならベットが線路に直角で、廊下が車両の片側にあるため、立って反対側の景色を見ることもできる。

この廊下で立ち止まっていても、何も見る物が無い。まるで不審者。
個室は暗証番号入力方式。

鍵を持ち歩かなくて済むので、この方式の方が便利だと私は思ったが、大きな落とし穴があった。

暗証番号だけは忘れないように注意していたが、部屋番号を忘れてしまった。
キー入力が不完全だったようで一発で開かず、てっきり違う部屋だと非常に不安になった。
東能代駅(7:52)

五能線「リゾートしらかみ」に乗り換えるため、今回はここで下車。
地上に降りて足腰を伸ばせ、助かったと言う気分。青森まで行くとあと2時間の乗車となる。
 ベットで横になりながら、窓に叩きつける雪越しに銀世界を眺め、吹雪の中を抜けて何百キロも移動する、考えてみれば凄いことだと思う。ガラス一枚で隔たれた別世界を誰にも邪魔されず、窓にへばりつき、好きなだけ写真を撮れるのは個室寝台の最大の魅力。他の人が居るところで、子供みたいに窓に正対したり、夜中にバシャバシャシャッターなんか切れない。こんな旅は本当に楽しい。
 B寝台個室と開放室で値段が同じなのに、好んで開放室を取る人が居るのか疑問だったが、そんな人が居ても、不思議では無い事を知った。お年寄りにとって、こんな狭いところで身繕いするのは相当辛い事だろう。そして閉所が嫌いな人も居るだろう。私自身、立ち上がれない事がこれほど辛いとは思いもしなかった。また、足をベットの上から降ろせないことも体の無理を強いられるのかも知れない。降ろせないことは無いが、動けない。
 「北陸」の乗車時間は7時間程度だから寝てしまえば良い。「あけぼの」は途中で降りたとはいえ10時間だ。起きている時間を快適に過ごせなければ辛くなる。二階室ならいくらかましなのだろうか。いつか乗ってみなければならない。
 線路平行ベットについては、あまり心地よい眠りにつけなかった。カーブの内傾と遠心力がつりあわないと坂の傾斜に直角に寝ているようで転がりそうな気になるし、ポイント通過では左右に揺すられる。枕木平行なら、列車の発停の度に同じ事を経験するはずだが、これはあまり気にならない。慣れの問題かも知れない。開放的な窓際の廊下が無いのもマイナスだが、一人当たりの窓面積は圧倒的にこちらが大きい。二階建て前提の車両ではなく、一階を無理やり二つに分けた物だから、多少の不便は仕方ないのかもしれない。
 

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