寝台特急の旅 その3 


  寝台特急 トワイライトエクスプレス  ロイヤル(A寝台個室)乗車記 (2007.7.4乗車)

 これほど旅情を感じさせる列車を他に知らない。窓際のテーブルに頬杖を突き、暮れ行く寒村を眺めていると、そこに佇む人の人生まで思ってしまう。自分にもまだこんな感性があったのかと、驚く。そんな非日常を味わえる旅だった。

 トワイライトエクスプレスに「乗ってしまった」というのが正しい表現なのだろう。トワイライトは最後の楽しみにとっておくつもりだった。家内の買い物に付き合い暇なので旅行代理店を冷やかし、ダメモトで叩いてもらったら何とロイヤルが取れてしまった。今度何時取れるかわからない。とにかく乗ってしまおうと前夜徹夜で仕事を片付け、札幌へ向った。無理をしてでも乗って良かったと思う。

 多くの人がトワイライトエクスプレス乗車記をwebで公開している。それらの人に負けないように書きたいのだが、文才の欠乏を嘆くばかりだ。
 写真も良くわかる物があまり無い。部屋が狭く普通のカメラでは一部しかとれず、今回28mm(換算値)広角レンズをわざわざ持参したのだが、やはりJRの広報のようには行かなかった。拙文ですが、この旅の楽しさを少しでもご理解いただければ幸いです。



トワイライトエクスプレス
 大阪-札幌間を日本海縦貫線(北陸、信越、上越、羽越、奥羽線)経由で往復する寝台専用特急。従来のブルートレインとは一線を画し、ダークグリーンの塗色。 所要時間下り(札幌行)約21時間、上り(大阪行)約23時間。片道約1,500km。
 10両編成、A寝台個室2両。B寝台個室3両、B寝台コンパートメント2両、それに食堂車、サロンカー、電源車各1両、。豪華さはオールA個室のカシオペアに譲るが、一人用個室としては北斗星と共にロイヤルを持ち、現在もNo.1。特に下り札幌行最後尾に着く1号車1番個室スイートは、JRで最も取れない指定券として有名。機関車は道内DD51重連、青函ED79、本州EF81。

、・車内、・車両仙台-札幌-五稜郭、・五稜郭-長岡、・長岡-高岡、・高岡-大阪
・新潟県中越沖地震、 ・後日談、 ・鉄道模型、 ・トワイライトの撮影

 
  車内
 A寝台個室ロイヤル、3月に乗った北斗星と基本的には同じでも、いくらか新しく微妙に違う。北斗星はソファー下部から補助ベットを人力で引き出す。こちらは電動になっており、スイッチを入れるとソファー背当て部が前方に回転し、平らになる。一見便利なのだが、背当てが前に出過ぎており、奥行きが明らかに足りない。とても安楽椅子と呼べるレベルではなく長時間座っていられない。ベットをセットし、その上でごろごろしていた方がはるかに楽だ。ロイヤルは一部屋毎に座席の向きが反対になり、ほとんどの人が前向きを好むのだろうが、この椅子で進行方向を向いていてもそれほどありがたくない。私は一人用の椅子に座るかベットで胡坐をかき、ずっと窓に正対していた。
 北斗星のテーブルは進行方向に向き小さいのに対し、こちらは窓に正対し若干大きい。と言ってもノートパソコンも置けぬ。北斗星では体とパソコンの揺動が一致せずほとんど使えなかったが、今回は使えた。列車の主な揺れは前後ではなく左右なのだから尤もな話。
 夕日を売り物にする列車だけあって遮光ガラスになっている。曇天時はハイスピードシャッターが切れずに困ったが、それでも良いこともあった。敦賀停車中に、外が明るければ部屋の照明を全部点けても外から中はほとんど見えない事を確認した。それを良いことに景色(それも動く)を眺めながらトイレに座った。こんな夢のようなこと、他の何処で出来ようか。 (そんな馬鹿が、他の何処に居ようか! 真似してトラブルに遭っても一切責任は負いません)
 A個室の他の乗客はほとんどカップルのようだ。簡単に乗れるものではないから、それも解らないではない。しかし、この列車の旅を満喫するなら、私はやはり一人旅を選ぶ。考えても御覧なさい。こんな狭い所で23時間も顔を突き合わせていて、最後まで仲良く出来るかどうか。確かに食堂車の朝食では皆さん寡黙だった。恋人同士でも止めた方が無難だろう。1m先がトイレ、100年の恋も冷めてしまう。もし二人部屋のスイートが取れたなら一人は寂しい。
乗車時のセット状態 
遮光ガラスでホームは暗いし、室内も暗い。
右奥シャワールーム
左テーブルは折りたたみ
左 入口戸
中央 上からドライヤー 食堂車直通インターフォン液晶テレビ、AVセレクター
液晶テレビは正面以外見辛く、寝転ぶとほとんど見えない。 
通路側
窓がついており、部屋の反対側の景色も見える。遮光されていないので、必要に応じてカーテンを閉める。
机が小さく、ノートパソコンもまともに置けない 通路側天井部分
物入れになっている。
邪魔なものは全部ここに放り込んでおくと片付く。
忘れ物をしないように
ベットセット状態
枕は硬柔二個ずつ、計4個。いろいろと使い道がある。
寸法的には二人で寝られるが・・・間違っても男二人で乗ってはならない。 ベット状態からソファーへ転換中。電動。
この程度なら手でやってもどうって事もない。
シャワー
合計20分使える。何と5回も浴びてしまった。
タオルは縛っておかないと振動で落ちる。
洗面台
シャワールームのため、手を洗う度に足が濡れる。
シャワーを使う時は、上方に畳む(便座も)。
便座
北斗星では使わなかったが、今回は23時間乗車のため使用。
慣れれば特に問題も無い。
浅いためうまく流れないが、立ててしまえば瞬時に流れる。

  車両
最後尾 電源車カニ24 札幌駅 DD51重連 先頭がホームの端にかかり、先頭車両の撮影ができない。札幌駅
 敦賀駅で機関車を交換する。 と言ってもどちらも交直両用EF81 敦賀駅  1号車1番のスイート個室 機関車を外したところ
札幌行下りで入手するのは至難らしいが、上りでは機関車の後ろになるため、途中の豪雨の影響もあって、ご覧の通り。
5万円も出してこれでは泣いてしまう。敦賀駅
大阪駅到着 お疲れ様
本人は全然疲れていない。
中央の大窓は、2号車3番スイート個室。1号車1番が上の通りだから、上りならこちらの方が良いかも知れない。
その左、2号車4番が私の部屋。あと一日位乗っていられそう。


  仙台-函館-札幌-五稜郭出来立てのいかめし 
 仙台-札幌-大阪-仙台をまともに乗車券を買ったらいくらになるだろうか。今回もまたJR東日本+函館+福井間乗り放題「大人の休日切符」をフルに使った。7月3日夕方仙台を発ち、22時函館着、その日は函館に泊り、次の朝札幌行特急「スーパー北斗」に乗車。せっかくトワイライトに乗るのに天気があまり良くない。梅雨とは言え、1,500km、23時間、どこかは晴れているだろうと楽観視。途中森駅でいかめしを積み込むとのことで、早速買ってみた。考えてみれば当たり前なのだが驚いたことに暖かい。冷たいいかめししか知らないので、出来立てとはこういうものかと感激。朝食は済ませたので昼食に温存。
 昼前札幌に着き、仕事の参考に青少年科学館を見学。青空が見えてきてほっとする。13:40札幌駅着。トワイライトの入線を見ようとホームの端まで行くが、これは失敗だった。「北斗星」入線のような編成の写真を狙ったのに、ほぼ真正面から来て冒頭の札幌出発ような構図しか決まらない。機関車は北斗星と同じ、ディーゼルDD51重連。塗色もトワイライト色ではなくブルートレイン色。
 午後2時、駅では最も人の少ない時間なのか、あまりじろじろ見られもしなかったが、若い女性が「いいなあ、これに乗って遠くへ行きたいわね」と話していたのを耳にする。ぼくだって切符を持たずにここにいたら、きっと同じ事を思う。私の2号車4番個室は最高グレードのスイート3番の隣なので、羨望の眼差しでちょっと覗く。きっといつか乗ってやる。自分の部屋に入ると、「北斗星」よりちょっと新しい感じ。これから丸一日弱ここで過ごすと思う心は浮き立つ。
 14:05定刻発車。「いい日旅立ち」のチャイムが流れ、とうとう乗ったという実感が沸いて来る。ほどなく食堂車乗務員がウエルカムドリンク(無料)サービスのウエルカムドリンクを持って来た。飲み物のオーダーは迷わず白ワイン。それがこの状況に一番ふさわしい。皆働いているこの時間に、寝台列車の個室にふんぞり返り、ワインを飲んでいるなんて、何と言う贅沢なのだろう。札幌の町並みが途切れる頃、車掌さんが検札に回ってきた。一通り部屋の設備を説明しようとしたが、ビデオは点いてるし、テーブルはセットしてあるので、「初めてじゃないんですか?」と言う。そうか、ほとんど初めての客で、リピーターは少ないのか。「これは初めてだけど、北斗星のロイヤルには乗ったことがあります」と答えるが、この程度の設備の操作方法くらいちょっと眺めればすぐにわかる。部屋のカードキーを置いて行った。
 千歳空港から室蘭までは仕事で何度も通ったところ。その先は数回しか通っていない。前回「北斗星」では日が暮れてしまったので、今回はじっくり楽しみたかった。室蘭の白鳥大橋の大きさに驚いた。新日鐵室蘭には何度も来たのに、初めて対岸から意識して眺め、製鉄所を核とする工業地帯の全貌を知った。室蘭から先、列車は波打ち際を走る。日本海の夕日を見るための列車ではあるが、ここで見る海も逆光に輝き十分に美しい。ただ、残念なことに日本海夕日仕様の列車のため、この景色がすべて個室側ではなく通路側なのだ。 そのためか部屋の通路側にも窓があり、視界は狭いもののとにかく両側の車窓を楽しめる(北斗星には無い)。通路側の窓は小さく、いちいち通路に立つのも面倒なので、戸を開放し椅子をその前に持ってきて座っていた。この先はA個室しかないし、時々車内探検の人が通るくらいだから全然問題ない。
内浦湾に沿って        左臼山 右昭和新山
 伊達紋別を過ぎるとちょっと忙しくなる。左側の海も良いが、右車窓の昭和新山、有珠山も見逃せない。これらの山々は思いの他間近で、最近の噴火の痕跡さえも望見できる。隣のスイートの初老の夫婦が通路で海を見ていたので、「昭和新山が見えますよ」と言うと、急いで部屋に戻って行った。きっとリタイヤか何かの記念で二人で旅に出たか、子供たちから勧められたのだろう。長年働きづめだった人には、この贅沢な個室楽しむ優先権がある。だからいつか自分の人生のご褒美に。


内浦湾越しの駒ケ岳
内浦湾越し 森駅付近より 小沼より
 内浦湾をすすむと、左手前方に駒ケ岳の特徴ある山体が望見されるようになる。海を隔てて聳え立つ姿は絵になる。何度も北海道に来たが、駒ケ岳がこんなに綺麗な山だったとは知らなかった。森駅から函館本線は駒ケ岳の西を通るルートと、東の海岸沿いを通るルート(通称砂原線)に分かれ、通常特急は西回りだが、上りトワイライトはうれしいことに貨物、鈍行用の東ルートを通ってくれる。森駅を過ぎると駒ケ岳は部屋側の右に移り、火山特有の荒々しい山肌が車窓いっぱいに広がった。しかし半周もすると山は雲の中に消えてしまい、独立峰を3/4周する路線は他にあるか知らないが、この変化の大きさも興味深い。
 森で別れた線路と合流し小沼越しに去り行く駒ケ岳のピークを見送っていると、程なく函館の町が見えてくる。北斗星で通った時は夜景が綺麗だった。函館の夜景は函館山から楽しむものとされているが、列車から見ても高度差がありそれなりに美しい。18:33五稜郭到着

 五稜郭-長岡

 五稜郭では機関車の付け替えが行われる。DD51重連から、青函用ED79に替わるのだが、何故かドアを開けてくれない。函館まで行って客扱いをしないのが不思議でならない。それどころか洞爺16:19発から翌朝新津4:37までドアが開かない。そんな訳で機関車の付け替え作業を見に行くことも出来ず、誰も居ないホームを眺めていてもしょうがないのでシャワーを浴びることにした。バスタブが無くても夏のシャワーはありがたい。タイマーがあり合計20分間使え、一回5分もあれば十分だから4回は使える。。「北斗星夢空間」には何とバスタブ付の部屋がある。揺れる列車で湯をはるとどういうことになるのか非常に興味があるのだが、臨時列車で一両しかない客車だからちょっと乗れそうもない。
 五稜郭から進行方向が反対になり部屋が海側になる。函館山、函館市街の灯が遠ざかって行き、海にはイカ釣り船の漁火がほのかに見える。写真を撮ろうとしてシャッタースピードが異常に遅い事に気付いた。日没時刻をちょっと過ぎだけなのになんだか暗い。これはガラスのせいかもしれないとデッキの普通ガラス部分と比較してみたら、何と75%もの光がカットされている。これではダメだ。結局個室を取りながら、30分間デッキで写真を撮っていた。
函館山と漁火 北海道のトワイライト

 青函トンネルに入る頃はすっかり夜の帳も降りた。北斗星では興味津々だった青函トンネルも今回はほとんど記憶がない。どう考えたってトンネルは面白くないのだ。中間地点を示す青、青、緑、青、青(逆だったかもしれない)のライトだけは認識したような気がする。調達しておいた駅弁でちょっと遅めの夕食を済ます。名物のフランス料理フルコースは12,000円なのでパス。蟹田でJR北海道の車掌さんから西日本の車掌さんに交代し、挨拶の放送があった。青森で機関車をEF81に替えたが、ここでも外に出られない。
食堂車で一人静かに酒を飲む 要予約のディナータイムを過ぎたので、ダイナーズプレアデスと名づけられた食堂車に行ってみた。驚いたことに客は私一人、弘前あたりでビールを飲みながら、街の灯りが散見される暗い津軽平野をぼんやり眺めていた。真冬の雪景色も良いだろうなと思う。今では珍しい食堂車に乗った記念に、乗務員にカメラのシャッターを押してもらった。彼は手馴れたもので「はい、チーズ」というのだが、物思いに沈んで、旅情に浸っているのに興醒め。
 11時を過ぎ、車内見物に後尾車まで行ってみた。食堂車の隣4号車サロンカーはすべての椅子は日本海に向き、天井までの窓が連なっている。ここで日本海に沈む夕日を見ていたら、確かに感激するだろう。もっとも太陽の位置、列車の位置でベストロケーションになるのは一年のうちで限られており、しかも晴天でなければならないから、本当に感激できるのは果たして何日くらいだろうか。深夜のサロンカー
 5~7号車はB寝台個室、ドアが閉まっていて中は窺い知れぬ。8,9号車は4人用コンパートメント。もっとも開放型のB寝台に透明なドアを付けただけ。これなら6,300円の寝台料金で乗れる。ただし、部屋の定員4人に
満たない場合は、相部屋になる可能性がある。ところがガラガラだった。一部屋に一人のところも多く、一人用個室として使えるが、通路から丸見え。トワイライトとはいえ、安い部屋は人気が無くなっているのだろう。ぼくもこの部屋に乗るくらいなら、飛行機で行ってしまう方を選ぶ。気の置けない4人グループなら楽しいかも知れない。 12時半頃秋田に停車。雨が降り続いているようだ。そのうち眠ってしまった。どうも揺られている方が熟睡できる。

 長岡-高岡

 翌朝、日本海を見ようと6時前に備え付けの目覚ましをセットしておいたが、5時半頃長岡停車で目覚めてしまう。5時間も眠っていないのに、楽しみがあると苦にならない。ところが雨は土砂降り。柏崎を過ぎると車窓の端から端まで日本海となる。輝く海が理想ではあったが、荒々しい日本海でも良しとしよう。そうそうお目にかかれるものでもない。しかし暗い。写真がうまく撮れない。昨日のようにデッキに出れば少しはましなのだが、何せ寝ぼけ眼で寝巻き姿だから部屋で何とかするしかない。
 海に一番近い駅と言われる青梅川駅を通過。何とホームの下が海だ。嵐、吹雪の日、ホームで列車を待つのは辛いだろう。(このホームは12日後の新潟県中越沖地震で土砂に埋もれた:後述)。砂浜とところどころに岩峰が続き、白砂清松というような見所が連続する。
柏崎付近 青梅川駅

 どこを走っているか分からなければつまらないだろうと、地図を持ってこようとしたが軽く詳しい適当な地図がない。そこでパソコンに地図ソフトを入れて持ってきたが、これは役に立った。地図をトレースしなければ駅名を読まないとどこを走っているか分からず、これがけっこう読み辛く、並行する道路標識を見た方が早いのだ。とにかく地図が無ければつまらない。理想を言えば携帯GPSなのだが。寝台特急カシオペアではモニターに地図とGPS情報が表示されるらしいが、これは絶対に欲しい。
 直江津から富山県にかけては飛騨山脈が日本海に断ち切られるところで、断崖絶壁が続く。40年も昔、富山に住んでいたころ東京から夜行列車で帰ったことがある。どういうわけか超満員で一晩デッキで立ち通しだった。その時、このあたりの沖合いで雷光が煌き、岩礁や砂浜が何度も浮かび上がった。その凄まじい光景は未だに忘れられぬ。今は頸城トンネルと言う長大隋道によって海にへばりついた危険な路線から幾分開放された。糸魚川から先の親不知は最も平地のない場所として有名。黒部峡谷鉄道のように断崖にへばりつくように線路が敷かれていた記憶があるが、それほどでもない。しかし、北陸本線、国道八号線が狭い部分に集中し、北陸自動車道は海上に張り出さざるを得なかったという。この区間も見ものだ
姫川 親不知付近 黒部川

 姫川、黒部川と言う北アルプスを源流とする河川は赤茶けた濁流となっており、豪雨の名残はあったが雨は小降りになってきた。黒部川を渡るとと富山平野に入り、海は望めなくなる。富山の手前の滑川は蛍烏賊、蜃気楼で有名なところ、ここで40年前2年半過ごした。滑川駅は昔のまま。ここから1年半列車に乗って富山に通った。列車から飛び降りて転んだ場所さえも思い出してしまった。街はかなり変わったようでもあるが、全くそのままと思える所もある。踏み切りで佇む女子中学生を見て思わず声を上げた。40年前そのままの制服なのだ。昨日の事のように記憶が蘇った。
滑川にて モーニングコーヒー 富山駅

 滑川-富山間は一年半通ったのに、どうも思い出せない。こんなところだったかなぁと言う感想。富山駅は良く覚えていた。何も変わっていなかった。新幹線開業に合わせて改築予定なのだろう。ちょっと降りてみたかったが1分停車。ミニスカートの高校生がホームにあふれている。40年前は膝小僧が見えたというだけで大騒ぎしていた中学生だった。彼女等と目が合わないように気をつけたが、どうも向うからは見えていないらしい。それでもじろじろ見る勇気はない(写真は撮った)。富山を出るとすぐに神通川を渡る。隣に道路橋が見える。あそこを毎日歩いて通った。母校がちらりと見え、高山線と分かれるころ食堂車から朝食の案内があった。
神通川 朝食セット

 せっかく乗ったのだから、せめて朝食くらいは食堂車で済ませたい。洋定食1,500円。ホテルの相場よりちょっと高いかもしれないが、何しろ動く景色付だから文句は言えぬ。食事中に高岡停車。通勤通学の人に申し訳なく、大口を開けたり大きな動作は憚られる。向うからは見えていないはずだが。
 一人で食べているのはぼくだけ。他の皆さんは家族連れ、カップルばかり。気になったのは皆さん何故か寡黙なこと。楽しそうに食べている人なんて誰も居ない。長時間狭い車内で顔を突き合わせ、話すこともなくなってしまったと思うのは、ぼくの経験から来た推量だろうか、それとも単なる寝不足だろうか。とにかく一人で居られる事が今は幸せだ。これに乗るのに、誰かと一緒なんて考えられない。

 高岡-大阪

芦原温泉駅
 高岡を過ぎると日本の平均的な田園風景で、睡眠不足なので半分眠りながらそれでも景色を見ていたようだ。加賀温泉郷や福井はいつも素通りなので、いつか来て見たいと思いつつ。10:36敦賀に停車し機関車交換。16分停車のため札幌出発以来20時間半ぶりに外に出た。これほど長く地上と絶縁されていたのは、生まれて以来始めてかも知れぬ。他の乗客も三々五々降りてきて、交換作業を眺めたり先頭車の前で記念撮影している。特敦賀にて 車掌さんは撮影補助にスタンバイしているに用も無いと思うのだが、車掌さんや食堂車乗務員もホームで待機しているので、記念撮影要員だろうと、せっかくなのでシャッターを押してもらった。交換する機関車はどちらも同じEF81トワイライト塗装。同じ機関車なのに何故交換するのか車掌さんに尋ねたところ、「長距離を走ってきたから替えるんですよ」との事。良くわからないがそんなものなのか。
 敦賀を出るとすぐに上り線はループに入る。日本で一番解り易いループなのだそうだ。確かに清水トンネルのループはほとんどトンネルの中で、本当に回っているのか分からない。ここのループは間違いなく右に見えた敦賀市街がいつの間にか左車窓に来ていた。
 ここから先湖西線を走る。この線が開通してから何十年、通った事がない。富山に居た頃はすべて米原経由だった。本拠地が東日本なら関西に行くにしろ北陸に行くにしろ縁のない路線。部屋は山側になり、琵琶湖を望むには通路に立たねばなず、おまけに残念ながら北海道や日本海のような興奮がない。
敦賀のループ 琵琶湖西岸
 12:14京都着。ここでかなりの人が降りた。京都から東海道新幹線に乗って帰った方が手っ取り早いが、完全乗車に拘ってここでは降りない。京都、大阪間も車窓は楽しい。新しくなった京都駅を初めて見た。宮城県図書館と同じ設計者なのだから、立派と言うか何と言うか・・・・ 京都駅の先に梅小路機関区があり、鉄道マニアにはたまらないところ。遠くて良くわからないがC62だろうか、黒いSLが見える。山崎付近で左右の山が迫っていることを初めて確認していると、下りとワイライトと擦違う。手でも振ってやりたいと思っても遮光ガラスでお互いに見えぬ。新大阪を過ぎると終着案内が流れ、再び「いい日旅立ち」のチャイムが聞こえてくる。札幌から大阪へ23時間の旅の終り。ホームに降り1,500km走破した列車を愛しむように眺め、名残を惜しんだ。いつかまたきっと、今度は誰かと1号車1番スイートに乗ってやると心に誓って。
京都 山崎付近のすれ違い 最後の写真



  新潟県中越沖地震 (2007.7.16発生) 

 この列車の沿線で7月16日に大地震が発生した。青海川駅を飲み込んだ土砂崩れ現場の中継映像は衝撃的だった。もし万一、そこに列車が走っていたら、土砂もろとも日本海に叩き落されていただろう。下りトワイライトでは親不知から柏崎にかけての車窓を一番の売り物にしていたのに、ちょうどその場所で大災害が起こってしまったのは皮肉なものだ。風光明媚な観光資源は自然災害と不可分である事を改めて思い知らされた。
 青海川駅は「海に最も近い駅」とのことで、通過時に見た時もホームの下は海だったことをはっきり覚えている。反対側は崖で、どうしてこんなところに駅があるのが不思議だったが、崖の上に集落があり、国道もそこを通っている事をテレビ映像で知った。
 信越本線の開通の目途が立たず、トワイライトは当分運休となっている。一昨年の羽越線脱線転覆事故と言い、豪雪による運休も多く、この日本最長距離列車の運行を維持するのは、容易なことではないのだろう。被災者の事を考えれば不謹慎かも知れぬが、トワイライトの旅を心待ちにしていた人も残念だったと思う。特に1号車1番のプラチナチケットを持っていた人の落胆は察して余りある。
 トワイライトの車窓からぼんやり眺めていると、何年も何年も変わらぬ生活をその土地土地で続け、本当に平凡としか言いようも無い毎日を営む一人一人が、本当は一番幸せなのだと思えてくる。災害に見舞われ日常を破壊された現場を通過するのは悲しい。

  後日談 (2007.8.15)

 この旅の話をすると、皆さん本当に羨ましがる。確かに普通の旅行と違い手軽ではない。まず札幌と大阪両方に用事なんて絶対にない。それからA寝台のチケットが取れない。A個室が10部屋しかなく、代理店がほとんど押さえてしまうため一ヶ月前の午前10時に緑の窓口に行ったとしても、運が良くないと取れない。ところが代理店で売れ残ると一週間前くらいにJRに戻すらしい。そこが狙い目のようだ。事実、「トワイライト」も「北斗星」も、乗車五日前に購入することが出来た。トワイライトは希望日を三日ほど伝え、その中で探してもらい取れた日に乗車することにしたが、これは勤め人にとって極めて難しい事だと思う(税制優遇を受け確定申告も無く、、保険料の一部も会社持ちなのだから、そのくらいは我慢しなさい)。
 さて今回幾らかかったか。東海道新幹線は「大人の休日切符」が使えず、飛行機で羽田まで戻った事もあり63,350円であった。一泊で家族旅行すれば近場の温泉でもこのくらいはかかるし、近い外国への安ツアーでもこのくらいだから、それらと比べてみても絶対に安い。ちなみに休日切符を使わなかったら80,560円であった。完全乗車にこだわらず、洞爺で乗車して福井で降り、そのまま北陸経由で帰ってきたら39,890円で、安く上げるのならこれでも十分楽しめる。A寝台ではなくB寝台にすれば1万円安くなる。しかしそれではつまらない。一生の間にせいぜい1回か2回だ。そんな時は思い切って贅沢をすべきで、それをケチってありふれた移動の旅にしてしまったのでは面白くない。
 札幌も大阪も何の観光もせず、大阪では下車後すぐに空港へ向い、もったいないと言う方が多かった。トワイライトに乗っただけで私は十分、他の物で感動を薄めたくない。せっかくだからともう一泊して、決まりきった観光をする方が私に言わせればよっぽどもったいない。お金と時間は集中して使った方が効率は良いはず。

 自分でも贅沢な旅だったと思うが、考えてみるとJRとしては出血大サービスのような気がする。下表をご覧いただきたい。すべて正規料金で、ロイヤルとシングルは2名でも可であるが一名として一人当たりの料金を計算した。
種別料金(円) すべて片道正規料金 山手線は100名乗車、他は満席として計算
種別 大阪ー札幌料金
(円/人)
一両当たりの売り上げ(円) 1km当たりの売り上げ(円) 編成としての売り上げ(円)
A寝台スイート 44,810 235,620 157.5 2,616,600
A寝台ロイヤル 36,500
B寝台ツイン 27,480 363,300 242.9
B寝台シングル 28,490
B寝台コンパートメント 25,620 409,920 274.1
飛行機(B777) 39,900 19,950,000 19,950,000
新幹線、在来線特急
東北、東海道経由
31,290
山手線(3ヶ月定期) 1,040
JRとしてはA寝台個室が満室になるより、B寝台コンパートメントが満席になったほうが儲かるのだ。予想はしていたが倍近い差があるのは思わなかった。
 一両で1km走るとどのくらい収入があるかを計算したのが次の列である。トワイライトが200円前後なのに対し、100人が乗った山手線で10kmほど走ると、キロ当たり1040円も入ってくる。予想外の採算の悪さだ。飛行機BOEING777が札幌、大阪間のワンフライトで2千万円も売り上げられるのに、トワイライトはたったの261万円でしかない。JRとしてはショーウインドで儲からなくても良いのだろう。その大サービスを利用してA寝台に乗ると言うのは、非常にお得と考えられる。
 真偽は定かではないが、「北斗星」発足時に2万円も出してロイヤルに乗る人はほとんどいないとJRはみていたらしい。そのためか北斗星のロイヤルは4部屋しかない。ところが高い方から売り切れると言う予想外の事態が出現した。かと言ってロイヤルを増やせば採算は悪くなり、JRとしても痛し痒しなのだと思う。

 鉄道模型 

 せっかく乗ったのだから、記念に鉄道模型を買っておこうと思った。25年ほど昔凝ったが、しばらく放り出していた。模型店ですぐに買えると思ったのは大間違い。今は種類が多く、予約しないと確実に入手できないようだ。しかもセット販売で私が乗った車両だけ入手するのは不可能みたい。待つこと1ヶ月、ようやく届いた。
 
 左からB寝台ツイン個室(オハネ25)、B寝台ツイン、シングル個室、そして右端が私の乗ったA寝台個室(スロネ25)である。販売セットは機関車と1~2両目、それと上写真を除いた5両が別々で全編成では3セット、合計約2万円となる。別にそこまでは要らない。先頭車が無いと締まらないのでそれが2両、食堂車、サロンカー、B寝台2両、自分が乗った1両、合計7両で何とか格好は付く。それなのに10両分買わないと揃わない。そこまでマニアではないから止めた。
 写真左が外観、内部がどこまで作りこまれているか開けてみたのが右である。結構良く作られている。左側の窓が私の部屋。中央の大窓と右の窓は2号車3番個室スイート。ベットが二つあり、トイレとシャワールームは別に設けられている。スイートと言っても一部屋しかないから"suite”ではない。"sweet"なのか? 新婚さんで無ければ、この広さをもってしても、23時間一緒と言うのはちょっと辛いものがある。ロイヤル2部屋の方が安い。車端の1号車1番スイートは別格。



 トワイライトの撮影

 トワイライトエクスプレスを撮影するのではなくて、そこから"twilight"(黄昏時)に写す話。とにかくこの列車では遮光率75%のガラス付きだから夕暮れ時に写真を撮るのは至難である。デッキに出て取った方が良い。使い捨てカメラや簡単なカメラでは不可能と思った方がよい。これから乗ってみたいと思う人は、カメラの説明書をもう一度読み直すことをお勧めする。
 まず、フィルムならISO800以上の高感度フィルムを用意すること。デジカメならISO800か、1600にセットし、絞りは開放にして出来るだけ早いシャッタースピードで写す。このようにセットしておけば、昼間なら景色もぶれず、波の泡沫まで写せる。
 列車から写真を撮って、しまったと思うのはここぞと言う時にシャッターを押しても、目の前に電柱が来てしまったりすることである。失敗を覚悟して出来るだけ多く写すしかない。フィルムはもったいないので、デジカメの方が良い。

こんな写真も写せます。

Nikon D40
レンズ 55mm
F5.6 1/800 秒
ISOスピードレート1600

車窓の直下を撮ったもの。
改めて凄い所を走っていると思う。
函館本線
 

 寝台特急 あけぼの シングル・ツイン(A寝台個室)乗車記 
 寝台特急 北斗星 ロイヤル(A寝台個室)乗車記 


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